コラム

2026.9.3

「あいだ」の​デザイン──We-Beingな​場・​空間・ワークプレイスを​考える

働き方・組織論

人と人のあいだ、個人と組織のあいだ、企業と都市のあいだ──。関係が動き出すのは、機能を割り当てられた場所そのものより、機能と機能のすきまであることが多いのではないでしょうか。コクヨ ワークスタイル研究所 所長/We-Being Project発起人である田中康寛が、国外事例と9か国調査を踏まえてWe-Beingな場・空間のあり方を解説します。

「あいだ」のデザイン──We-Beingな場・空間・ワークプレイスを考える

「あいだ」のデザイン

We-Beingという考え方を、コクヨは空間と環境のデザインへ翻訳しようとしています。鍵になるのが、「あいだ」のデザインという考え方です。人と人のあいだ。個人と組織のあいだ。企業と都市のあいだ。振り返ってみると、関係や好奇心が動き出すのは、機能を割り当てられた場所そのものより、機能と機能のすきまであることが多い。そんな実感が、この試みの出発点にあります。 身近な例が、会議の前後です。会議室での公式のやりとりよりも、終わったあとの通路での立ち話や、席へ戻る道すがらの一言に、本音や大事な情報が現れることは珍しくありません。「さっきは言いそびれたのですが」「実はあの件、少し心配で」。議題という目的や強い利害関係から解放された数分のほうが、物事が動きやすいのかもしれません。だとすれば、会議室の設計と同じくらい、会議室を出たあとの動線にも気を配る価値がありそうです。例えば、通路を少し広げて、背をもたれかけるオブジェを用意する。目的地ではなく、道すがらをデザインするという発想です。 この見立てに立つと、場づくりの前提も少し変わってきます。これまでの場づくりは、まず空間や催しを用意し、そこからつながりが生まれることを期待してきました。立派なラウンジをつくったのに誰も使わない、交流イベントを開いても、集まる顔ぶれがいつも同じ、といった声はよく聞かれます。We-Beingの場づくりでは、目的や対象者が固定化させず、流動性を高めることをめざします。無目的的な会議のあいだを支えることや、内向的な人と外交的な人のあいだを紡ぐこと。計画された会では遠慮が働いてうまく自分を馴染ませられないこともあると思います。それはその場が一部の目的や人に支配されていることも一因だと考えます。このプロジェクトでは、固定化された場を「あいだ」の視点でほぐしながら、関わり合いが生まれる確率を少しでも高める場づくりを試みます。 ここでは「あいだ」を再設計した2つの事例を紹介します。そのアプローチとして私たちが注目したのは、オフィスを「企業文化を表現するメディア」「自治を通して居場所を育てる実験場」としてとらえなおしている点です。

「企業文化を表現するメディア」としてのオフィス

1つめの事例は、韓国のIT大手NAVERがソウル近郊に2022年に開いた新社屋「1784」です。この建物には、検索企業から総合IT企業へ、という事業転換の意思が刻まれています。社屋全体がテストベッド(実験台)と位置づけられ、ロボットが行き交い、従業員は自社の技術やアイデアを日常業務のなかで試し合います。スタートアップや学術機関と協働する場も組み込まれ、来訪者は、NAVERの歴史や人格、未来を体感できるパブリックスペースを自由に使えます。オフィスが、会社の物語を語るメディアであり、未来の働き方やビジネスの実験場として活用されているのです。 2つめは、オンラインコラボレーションツールを手がけるMiroがアムステルダムに構える「Miro100」です。ここは、自社サービスの核であるコラボレーションを空間で体現するリビングラボです。特徴的なのは運用で、日常的に従業員のフィードバックを集めて3ヶ月に一度空間やルールをつくり替える、イテレーション(反復改善)の仕組みが回っています。また、フロアには「ネイバーフッド」と呼ばれるチームごとの拠点があり、メンバーが安心して帰ってこられる居場所になっています。空間を与えられたまま使うのではなく、従業員の意思で更新しつづける。自治を通して居場所をつくる試みです。 2つに共通するのは、オフィスを作業スペースではなく、組織との調和や同僚との連帯、つまり感情的な結びつきを育て、自治的に変容していく場として扱っていることです。もちろん両社とも特別なイベント(ハレ)も行っていますが、それ以上に日常的な活動(ケ)を通して同僚や組織とのあいだに結びつきに焦点を当てていることが特徴です。こうした日常的で穏やかでありつつも、自治的に結びつきを変えられる職場環境が持続的な働き方を支えるのでしょう。 補足ですが、Miroで紹介した「ネイバーフッド」は、ワーカーの孤立への対応と、企業のオフィス効率化(フリーアドレス)を両立するアイデアです。9か国調査では、同僚と席が近いほどWe-Beingが高まる一方、決まった拠点を持たないフリーアドレスはWe-Beingにマイナスに働く傾向が見えています。特に日本では、出社の頻度より、出社時に同僚とどれだけ近くにいられるかがWe-Beingを左右していました。つまり、出社率よりも、出社時の同僚との近接性がウェルビーイングに寄与しやすいのです。では固定席が最適解かというと必ずしもそうではなく、チーム単位のホームベースを確保したうえで、活動に応じて場所を選ぶ方式が有効といわれています。強制ではなく、自発的に「あいだ」を取り戻しに行く拠り所が、分散的な働き方の懸念を和らげてくれるようです。

オンとオフ、役割と素顔のあいだ

このように、オフィスには様々な「あいだ」が存在します。もう少しだけその着眼点を紹介してみようと思います。 たとえば、オンとオフのあいだ。集中して働く空間は意識的につくられても、緊張を解いて逃げ込める場はそれほど多く用意されていません。外の見える階段、屋上の緑地、食事を口実に席を立てるフードエリア。気分を切り替えたり、苦悩から距離を置いたりできるアジール的な場があることはサボりの容認ではなく、むしろ安心して仕事に戻るための条件なのだと思います。 また、役割と素顔のあいだ、という着眼もあります。肩書きや担当という鎧をいったん下ろし、一人の人間に戻れる小さな空間。瞑想室やギャラリーのような場は、組織のなかで自分を保つためのデトックスとして働きます。これらは現在の従業員だけでなく卒業生にも広げられます。トロントのBCGでは巣立っていった元従業員も利用できるスペースを用意し、現役生と卒業生、つまり多様な業界のあいだを結びつける場をつくっています。

図:同僚との物理的距離とWe-Being / 出典:コクヨ×京都大学 We-Being 9か国調査

チームが自分たちの特色に染められる、部室のようなプロジェクトルームも、メンバーのあいだをデザインする場といえます。ポスターを貼る。プロジェクトならではのツールを持ち込む。机の並びを変える。会社に与えられた空間を綺麗に保つのではなく、手入れできる余地は、ここは自分たちの場所だ、という感覚を育てます。そして、チームとチームのあいだをつなぐキーワードが「痕跡」です。ホワイトボードに残る議論の跡、壁に貼られた検討中の図面。活動の途中経過が見えていると、隣のチームが何に取り組んでいるかがにじみ出て、「それ、うちも困っていて」「これ面白いですね」という偶発的な会話のきっかけになります。

「私たちの記憶」を蓄積する場

さらに、このプロジェクトでは時間の「あいだ」も考えていきます。日本・イギリス・アメリカ・台湾の4か国で「職場での幸せな出来事」がいつ起きたかを尋ねると、日本は、何年も前の出来事を挙げる人の割合がもっとも高くなりました(1年以上前の出来事を挙げた人は、約4割にのぼります)。日本で働く人の幸せは、直近の喜びよりも、時間をかけて熟成した遠い思い出に支えられやすいといえそうです。特に、チームで夜通し練ったコンペに勝ったとか、上司に厳しく叱られた経験がいま頑張れている、といった具合に誰かとのほろ苦い出来事を反芻して(美化して)、現在の糧とする点が日本特有でした。そうであれば、職場が、人と人とのあいだに思い出が生まれる場になっていなければ、持続的な労働も働きがいも育たないのではないでしょうか。近年はAIやリモートワーク、コンプライアンスなど人との付き合い方が急速に見直されていますが、他者に迷惑をかけず保守的な志向が強まれば思い出は生まれづらくなり、将来の働きがいも乏しくなる可能性もあります。ただし、そうした個人にとって直接的な記憶でなくとも、創業からの歴史やプロジェクトの痕跡が残るオフィスは、あとから加わった人にも、続きものの物語に参加しているという感覚を与えます。分散した働き方が広がるいま、「私たちの記憶」をどこに、どう蓄積するか。思い出をアーカイブする場のつくり方は、建築家や都市計画の研究者とともに探究を続けているテーマです。

図:「職場での幸せな出来事」はいつ起きたか /  出典:コクヨ×京都大学 4地域調査

企業と地域の新しい関係性を探る

最後に、企業と都市・社会のあいだも問い直したいと考えています。オフィスの一階を街にひらき、社外の人も立ち寄れる縁側のような場をつくる。地域の人が出入りする、スナックのような小さな空間を設ける。あるいは、無目的でふらっと佇める場を設けるのもよいでしょう。海外を中心に、敷地を街区のようにひらき、カフェや広場を地域と共有するオフィスも増えています。 企業にとってはCSRやブランディング、コラボレーションといった狙いがあるわけですが、会社の外との接点を持つことはウェルビーイングにもよい影響をもたらします。9か国調査で「わかちあう幸せ」がもっとも高い水準にあったマレーシアでは、地域活動や社会貢献、副業といった社外の活動をしている人が85%と9か国で最多でした。いっぽう日本は、社外活動を何もしていない人が66%と突出して多く、活動している人は3人に1人にとどまります。種類を問わず社外活動をしているワーカーはWe-Beingが高い傾向にありましたが、特に日本では地域とのかかわりを持つワーカーはそうでないワーカーと比べて有意に「わかちあう幸せ」が高まることがみえてきました。なぜ地域での活動が、結果的に職場での分かち合いにつながるのか、正直なところメカニズムは探究中です。しかしながら、従業員が地域に参画できる機会を生むことは、分かち合うことが苦手な日本が変わる契機となるかもしれません。

 図:社外活動の実施率 / 出典:コクヨ×京都大学 We-Being 9か国調査

「あいだ」のデザインとは、約束の設計でもある

ここまで、さまざまな「あいだ」の場を例示してきました。こうした「あいだ」の多くは、空間デザインやコンテンツだけでなく、運用的な「許し」によって成り立つ部分も多いです。途中の資料を壁に貼ったままにしてよい。棚に私物や趣味の本を置いてよい。仕事の合間にオフィスを散歩してよい。物理的には同じ空間でも、何が許されているかによって、そこで生まれる関係は変わるでしょう。「あいだ」のデザインとは、家具やツールの設計であると同時に、約束の設計でもあるのです。 「あいだ」のデザインに共通するポイントは、場の機能を固定しきらず、関係や変容が生まれる余地を残しておくことです。用がなくてもいられる。手を加えてよい。途中のものを見せてよい。弱っているときは退避してよい。こうした小さな「よい」の積み重ねが、好奇心を差し出しやすい場をつくります。もちろん、余地を意図的に設えることができるのか、あるいはすべきでない場合もあるのではないか、と思います。こうした試行錯誤を幅広い分野の方々と探究したいと考えています。とはいえ、こうした余地の喪失は、関係を醸成させながら自分の役割や居場所を探る人びと(例えば東アジア圏)にとって、関係も働きがいも失われかねません。効率の観点では無駄に見える部分に、We-Beingの観点では意味が宿るのだと思います。

2030年に向けたオフィス像「CARE Place」

こうした視点をもとに、このプロジェクトは2030年に向けたオフィス像「CARE Place」として構想しています。CAREは4つの要素の頭文字です。組織のビジョンや物語が表現され、共有される「Culture」。仲間とともに成長する機会がある「Advance」。共助と協働のコミュニティが育つ「Relationship」。人や情報との偶発的な出会いが起こる「Encounter」。

図:CARE Place(好奇心と居場所からワーカーを回復する福祉的職場)

この4つを備えた場を通じて、人と人、人と組織、企業と地域、過去と未来の「あいだ」を結び直していく。オフィスを、仕事を処理する場所から、働く人が社会的な関係を取り戻していく場所へ。私たちはこの変化の先にある職場を「福祉化する職場」とも呼んでいます。制度や手当の話ではありません。職場を、人が消耗していく場ではなく、好奇心と居場所によって社会性や人間性が回復していく場として捉え直す、という意味です。効率化やリモート化が進むほど、「それでも人が集まる理由」が問われるようになります。We-Beingな場づくりは、その理由・目的に「回復」を実装することなのだと、いまは考えています。

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