30 Voices

これからの幸せの手がかり

「開いていく ほぐしていく」

VUILD株式会社 代表取締役CEO / 建築家 / メタアーキテクト

秋吉浩気

1988年大阪生まれ。芝浦工業大学工学部建築学科卒業後、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科政策・メディア専攻X-design領域にてデジタルファブリケーションを専攻。建築テック系スタートアップ〈VUILD〉を2017年創業、「建築の民主化」を目指す。デジタルファブリケーションやソーシャルデザインなど、モノからコトまで幅広いデザイン領域をカバーする。〈まれびとの家〉でグッドデザイン金賞(2020)、〈学ぶ、学び舎〉でiF DESIGN AWARD Gold(2025)など受賞歴多数。著書に『メタアーキテクト——次世代のための建築』など。

Q&A

「あいだ」に宿る ウェルビーイング“We-Being” を叶えるためのキーワード

「開いていく ほぐしていく」

一人でできることはたかが知れています。一方で、同じ志をもつ自律した個が連帯すると、社会を動かす大きな力になる。これは歴史が証明しています。他者と協働するために、まずは自らの壁を開き、対話を重ね、関係性を構築すること。身近なところから変革を起こすことが世界を変えることにつながると思っています。

それを実感したエピソードは?

富山県の集落に竣工した「まれびとの家」は、かつての合掌造りのように「地域住民が参加して建てる建築」を目指し、これまでまったく交流がなかった集落の方々と、クラファンで応援してくれた人たちが一緒に手を動かしてつくりました。協働することで、人と人のつながりが生まれ、コミュニティも育まれることに。僕らのものづくりや経済活動が、地域によいインパクトを与え、変化を生み出す起爆剤になる可能性を感じました。

Interview

キーワードやエピソードの周辺には、どんな想いがあるのでしょうか。お話を伺いました。

人の手に、つくる喜びを取り戻すために

——秋吉さんが代表を務める建築系スタートアップ・VUILD株式会社(以下、VUILD)は「建築の民主化」を掲げています。秋吉さんは「建築の民主化」という言葉に、どのような思いを込めているのでしょうか。

一人ひとりが「つくりたい」と思ったものをかたちにできる社会にしたいと思い、VUILDを立ち上げました。かつて、家をつくることは自分の個性を表現することとつながっていたように、自らの希望をかたちにするものづくりを通して、僕たちは自分らしさやアイデンティティを見出すことができるはず。「建築の民主化」という言葉には、人類がもともと持ち合わせていたはずの「つくる」喜びや自由さを個人の手に取り戻したい。そして、「つくった」ものに宿る自分の個性や価値観にあらためて気づくきっかけを提供したい。そんな思いを込めています。

——VUILDのコアバリュー「PLAY・VENTURE・FESTA」の土台には「自律・分散・協調」という考え方があります。「建築の民主化」を目指すうえで、なぜこの考え方を大切にしているのでしょうか。

大学院でプログラミングを学ぶなかで、一つひとつのエージェントにどのようなプログラムを与えると、全体としてどのような振る舞いが生まれるのかというシステム論に興味を持ちました。そこで興味を持ったのが、それぞれが自律し、分散しながら、互いに協調していく仕組みです。上から下への指示で広がるのではなく、個々が横につながりながら全体をつくっていく。その「自律・分散・協調」という振る舞いのなかに、世の中の真理を見た気がしました。 たとえば、生命システムにも、同じような性質があると捉えています。細胞はそれぞれ自律的に活動し、互いに情報をやりとりしながら相互作用することで、一つの身体として秩序のある状態をつくる。インターネットも同じで、世界中にある個々の独立したコンピューターが、ネットワークを通じてつながっているんです。 建築においても、こうした「自律・分散・協調」の世界を実現したいと考えています。そのためには、まず会社そのものがそういう組織であるべきだと考え、創業当時のコアバリューは「自律・分散・協調」でした。

共創で生まれる「ここにいていい」という実存の感覚

——VUILDのプロジェクトでは、建築の現場を開き、施主や地域の方々を巻き込みながら進める「共創」の取り組みが印象的です。建築において他者と共創することは、どのような点で大切だと思いますか。

僕自身にとっては、誰かとコラボレーションすることは、自分の殻を破る「自己変容」のプロセスの一部です。ともに取り組むことで、その場でフィードバックを得られたり、これまでにない挑戦ができたりする。自分に返ってくる気づきや学びが、より一層大きくなります。こうして自分たちのバリアを打ち破り、変化する。そういった変容のダイナミクス※を、自分たちで起こせるのです。 ※ダイナミクス:他者との関わりや相互作用によって、個人や集団に変化が生まれていく力学のこと

床に置いた部材を手で確かめながら、ともに作業する人たち。

VUILDでは、プロジェクトの目的を達成するために、共創を取り入れたほうがよいという判断は前提にありつつ、単純に共創は楽しいから取り入れたいと考えているメンバーが多いと思います。他者とともに取り組むからこそ、より難しい作業や段取りが生まれ、自分たちだけでは想像しえなかった成果を産み出せる。そうした課題や思考に対して、自分たちの技術やアイデアでブレイクスルーを起こせたら、達成感があり、楽しさにつながりますよね。 また、ともにものづくりをすると、「ありがとう」と直接声をかけてもらえることがあります。それは、「実存の感覚」を得ることにもつながっているのではと考えているんです。

——「実存の感覚」とはどのような感覚なのでしょうか。

実存とは、自分がここに存在していることへの実感です。共創のプロセスでは、直接いただく感謝の言葉をはじめ、通常以上のコミュニケーションや関わり合いが発生します。それは、自分は「ここに存在していていい」という感覚につながっています。この感覚は、ウェルビーイングにも結びつくのではないでしょうか。

——そうした共創の取り組みは、すべてのプロジェクトに導入しているのでしょうか。

僕らは、共創のものづくりを「co-build(コビルド)」と呼んでいます。これまでは、すべてのプロジェクトにco-buildを必ず導入してきたわけではありませんが、これからは各プロジェクトに意識的に取り入れていく予定です。というのも、co-buildを単なる手法としてではなく、VUILDがつくり出す社会的なインパクトにおいてco-buildは重要な要素だと捉えているからです。

これからのVUILDは、事業を通して「エコロジーの再生」を目指していきます。ここでいう「エコロジー」とは、いわゆる生態学的な地球環境のことだけではなく、人間の内面も含んだ包括的な概念です。まずは、これまで各プロジェクトで生まれていたポジティブなインパクトを可視化し、「人間・地域・地球」の3領域に分類。それぞれにインパクト指標を設け、アプローチしていくことにしました。 「co-build」は、「人間性」の再生、つまり精神の豊かさの再生につながる重要な要素だと考えています。僕らと一緒にものづくりをすることで、ものをつくれなかった人がつくれるようになる。これは自己肯定感を高めることにつながります。ものづくりの感覚を取り戻すことで、人間の心をもアップデートできるのではと考えているんです。

ともにつくることで、人と人との関係性がほぐれていく

——これまで数々のco-buildの実践を重ねてきた秋吉さんは、他者と協働するうえで、どのようなことが大切だと考えますか?

「開いていくこと、ほぐしていくこと」が大切だと思います。自分の領域や専門性、立ち位置に固執してしまい、他者とのあいだに壁をつくってしまうことがあるかもしれませんが、その境界線に張ってあるバリアを解かなければ人とつながることはできません。 たとえば、施主と設計者、施工者の関係では、通常誰かが下請けとなり指示される役割になりますが、co-buildは対等な関係性で進めていきます。「私たちはこういう作り方だったら、このようなクリエイティブを発揮できます」「こういうものをつくりたいんだけど、それを叶えるにはどういった技術が必要なんですか」などと、互いに開き、関係性をほぐし、同じ目線に立って、対等なコミュニケーションを積み重ねていく。これこそが、よいコラボレーションにつながります。 また、「協働」にはビジョンの共有が重要だと思います。ほんとうに連帯するには、協働する理由や背景を理解していることが重要です。あくまでも協働は手段でしかないですから。

教室で生徒たちに向けて話す秋吉浩気さん。

——co-buildを通じて、ともにものづくりをすることの意義を感じた体験を教えてください。

思い浮かぶプロジェクトはたくさんありますが、3つご紹介します。まずは、香川県・小豆島で手がけた「小豆島 the GATE LOUNGE」のプロジェクトです。「小豆島 the GATE LOUNGE」は、オリーブの栽培・研究開発・製造・販売を行い、宿泊もできる複合施設。このプロジェクトのビジョンは、「100年後の自分の孫世代に贈る誇れるものをつくる」というものでした。孫に胸を張って「これは自分たちがつくったんだ」と言えるように、co-buildを選択。約100人の社員のみなさんとともに、これまで建築で使われることのなかった小豆島産の石材や木材を使い、施設を建設しました。 オープン時の内覧会で、工事に携わったみなさんが、自分が塗った壁やつくったものに愛おしそうに触れながら「これは自分たちがつくったって自信を持っていえるね」と話しているのを耳にして、co-buildがあったからこそ、この土地で生きる人の心に残せるものがあったのでは思いました。

©︎Takumi Ota
1/3

2つ目は、VUILDが開発したデジタル家作りサービス「NESTING」で、島根県・海士町(あまちょう)を拠点とする企業のオフィスを共創したプロジェクトです。「NESTING」とは、自分好みの家をアプリ上で注文し、セルフビルドキットが届くサービスで、その素材を使い、社員のみなさんと一緒にオフィスを建てました。 終了後に行ったインタビューで「オフィスを建てながら新規事業つくったりと、とにかく大変だった。でも出来上がってみると本当に誇らしい気持ちです」とスタッフみんなで号泣したエピソードを伺いました。「大変だった」という言葉に少しの申し訳なさを覚えつつ、その一方で一つのことをみんなで成し遂げて泣けるっていいなと。建物のかたちが残るだけでなく、泣けるほどの体験をした時間は記憶に残ると思います。

木の柱と梁が見える、完成したオフィスの内観。
「NESTING」
1/3

3つ目は、創業前に実施したVUILDの原点にもなっている、災害現場で被災者の方々が「必要としているモノをその場でつくる」ワークショップです。2トン車に発電機と木材用の3D加工機「ShopBot」を積んで被災地に向かい、現地の被災した木材を活用してゲートボールラックをつくり直しました。参加者は、避難所で暮らしているおじいちゃん、おばあちゃんたち。「何を作り直したい?」と問うと、「ゲートボールラックを作りたい」と。彼らは日常的にゲートボールをして過ごしていたけれど、災害によってゲートボールのフィールドや道具が流され、できなくなってしまったそうなんです。「ShopBot」で部品を削るものの、木材の研磨から組み立てまでは、みなさんにも参加してもらい製作しました。 数時間後に完成すると、みんな泣いて喜んでくれて。これまで杖なしでは歩けなかったおばあちゃんは、ゲートボールの棒をもち、嬉しくて飛び跳ねながら走っていました。心が弱ると身体の調子も悪くなることがありますが、その一方で、心からの喜びや嬉しさが身体にもよい影響を与えることがある。それを目の当たりにして、みんなでものづくりをして「できた!」と喜び合うことは、ウェルビーイングにつながることがあるのだと実感しました。こういった経験が当たり前にできる世の中にしていきたいですね。

避難所でワークショップについて話し合う参加者たち。
1/2

長期的なまなざしで向き合う、建築がつなぐウェルビーイング

——秋吉さんの著書『メタアーキテクト——次世代のための建築』に、「建築をつくることは次世代への贈与」だと考えていると記されていました。よりウェルビーイングな世界をつくるうえで、建築にはどのような役割があると考えていますか。

建築は、長期的な幸せを考える視点をくれる存在だと考えています。現代の資本主義は、SNSをはじめ、一時的な快楽に集約され、今売れるものをつくっては、すぐに消費される。これは世の中をよい方向に進めているとは思えません。 一方、建築とは、何十年、何百年とまちに残り、歴史や文化、風景をつくっていくもの。短期的な価値に左右されない強さがあります。たとえば、2019年に富山県南砺市利賀村に竣工した「まれびとの家」は、合掌造りによって、何百年と受け継がれてきた集落の風景に馴染もうと計画したものです。そうした大きな時間軸のなかで、長期的な価値や蓄積される文化をつくるものとして建築は重要な存在です。そういう意味で、建築をつくることは「次世代への贈与」であると考えています。

©︎Takumi Ota
1/2

この時間軸は、一時的な快楽であるハピネスと、長期的に良質な幸せの状態であるウェルビーイングの違いにもつながります。建築は、今この瞬間の幸せだけでなく、日常のなかに持続的な豊かさをつくる大切さを考えるきっかけにもなる。戦争や災害など、さまざまな変化が起こる時代だからこそ、長く残り続ける建築を通して、長期的な幸せを考えることには意味があると思いますね。

Share
秋吉浩気 ウェルビーイング“We-Being”を叶えるためのキーワード - We-Being Project|KOKUYO