これからの幸せの手がかり
「恥ずかしめ」
スマイルズ代表取締役社長 兼 CCO
野崎亙
スマイルズ代表取締役社長 兼 CCO。京都大学工学部、東京大学大学院卒。株式会社イデー、株式会社アクシスを経て、2011年、スマイルズ入社。全事業のブランディングのほか、入場料のある本屋「文喫」、東京ミッドタウン八重洲「ヤエスパブリック」など多様な業種・業界のコンサルティング、プロデュースを担う。2023年、創業者・遠山正道からバトンを受け取り、現職に就任。2028年、帯広に誕生する「ナンモナンモ帯広」の商業区画およびパブリックスペースの総合プロデュースを手掛ける。
Q&A
「あいだ」に宿る ウェルビーイング“We-Being” を叶えるためのキーワード
自分の恥部を出せるかどうか。それがすべてだと思います。まずは、上の立場の人たちが弱みをさらけ出すことです。みんなが「私は存在していい」と思えるようになるには、「こんな自分でも存在できるよ」と証明してあげることが大事です。恥部と強みは共存するもの。それに、弱みは魅力になることもあります。
それを実感したエピソードは?
人間は、長所だけでできているわけでも、短所だけでできているわけでもありません。それらがない交ぜになって人間性があり、だからこそ認め合える。一人ひとりが誇りや自信を持ってやっていること、その人らしさをお互いに認め合える状態が幸せだと思います。そういうみんなと必死に妄想して、最後まで良いものを目指したプロジェクトが形になったとき、「やったぜ」という達成感より、「よかった」という安心感や多幸感があります。
Interview
キーワードやエピソードの周辺には、どんな想いがあるのでしょうか。お話を伺いました。
関係性のなかでウェルビーイングは生まれる
──これからの社会では、人と人の「あいだ」に生まれる幸せ、“We-Being(私たちのウェルビーイング)”が鍵になると考えています。野崎さんは、日々の暮らしのなかで、どんなときにウェルビーイングを感じますか。 仕事で新しいことに挑戦するとき、とにかくワクワクします。ワクワクって、恐怖と希望が入り混じっている状態と聞いたことがあります。それが恐怖じゃなくて前向きなドキドキとして感じられるのは、一人じゃないから。一人だったら、多分、恐怖が勝っちゃう気がしていて。 「人間」という言葉は、日本人がつくり出した発明のような言葉だと思うんです。広辞苑で調べると、人と人の間と書いてあって、ないものを定義しているわけです。僕らはヒト科の動物である以前に、感情の生き物であり、関係性の生き物なのだと思います。 「我思う、故に我あり」という、自立した個人としての考え方もあります。でも、「君は生きているよ」と誰かに認められるから、自分が生きていることを実感できるのではないでしょうか。 だから、自分自身を自覚することも、ウェルビーイングな状態だと認識することも、だれかとの関係性がなければ難しい。個人の幸せと関係性のなかにある幸せは、別のものではなく、相互補完関係にあると思います。
お互いを認め合えるから、「自分ごと」になる
──「Soup Stock Tokyo」や「文喫」をはじめ、社内外でさまざまな仕事を手掛けてこられましたが、「ウェルビーイング」という言葉を使ったり、意識したりすることはありましたか。
ないです。それは「ウェルビーイング」に限らず、社会で一般的に制定されている言葉を使うことで、言葉の解像度を下げてしまうことがあると思うからです。理解した気になってしまうのが一番のリスクです。それに、「ウェルビーイング」や「幸せ」は一人ひとり違うものだとも思っています。 でも、「自分ごと」という言葉を社内外でよく使います。英語なら「オーナーシップ」、分かりやすく言うと「私の範囲」です。 たとえば、自分の飼っている猫が病気になったとき、自分のことのように心が苦しくなる。友達が傷ついていると、自分も心が痛む。それは、自分の範囲として、自分ごととして捉えているからです。 会社での一人ひとりの働き方も、暮らし方も、大事なのは、それが自分ごとであるかどうかです。幸せは、少なくとも「自分ごと」という土台があってはじめて感じられるのではないでしょうか。 仕事は、人に強制されたり、無理なプレッシャーをかけられたりすると、しんどいものです。だから、一人ひとりが仕事を「自分ごと」として捉えられるようにするには、強みも弱みも恥部も含めて、その人らしさをお互いに認め合える状態をつくることが必要です。360度とは言わないですが、270度くらいを認め合えている状態がいいと思います。

108個の人事評価指標
──自分らしく働き、生きていけることはウェルビーイングにつながりますよね。お互いに認め合える状態をつくるために、会社では何を大切にしていますか。
スマイルズには108個の人事評価指標があります。指標はさまざまな方向にベクトルが向いていて、それぞれのありたい姿や、得意が活きるかたちの指標もある。たとえば、「弱魅力」や「ほだし力」「火中栗拾力」「やったことないことやる力」といった項目があります。自分で設定して、自分で目指してください、というスタンスです。 会社は、そこにいる人に合わせて変わっていけばいいと思っています。実際に、ある人をちゃんと評価したいから、新しい評価項目を作ったこともありました。
──多様な人たちがうまく協働できる職場をつくるコツはありますか。
採用がすべてだと思っていて、「誰にも似てない」人を採るようにしています。性格というより、価値観のことです。自分たちのアウトプットも誰にも似ていなくありたいし、組織もどこにも似ていたくない。一人ひとりも、誰にも似ているわけがないという前提に立っているからです。 その人しか持っていない経験を重視しています。ネガティブな経験でもポジティブな経験でも、すべてがその人の糧です。自分自身を高い解像度で理解し、すべての経験を生かそうとする人。そういう人を採用したいです。 会社の規模を大きくしたいわけではありませんが、400人くらいの誰にも似てない人たちの集団を見てみたい。そうすれば、あらゆる人に価値があることに、一人ひとりが気づけると思います。本当の意味で、互いを認め合える状況をつくりたいです。

一人ひとりが一人ひとりに寛容な未来
──野崎さんはこれから、どんな未来をつくっていきたいですか。
一人ひとりが一人ひとりに対して寛容な社会を目指したい。その思いは昔から変わっていません。 自分がAだと思っていても、Bだと思っている人が確実にいる。その前提に立つことが大事です。違う意見が提示されたときには、「そういう考え方もあるのか」と一度受け止める。そこからしか、We-Beingな状態は始まらないと思います。 相手の立場になったら自分はどう感じるだろうかと、一人ひとりが想像しながら認め合えることが大事です。世の中はますますそうじゃなくなっている気がしますが、少なくとも我々はそうありたいです。スマイルズが価値を届ける先の方々にも、その大切さを伝えていきたいです。 2019年から開催しているPASS THE BATON MARKET(パスザバトンマーケット)も、寛容さで包まれる世界です。企業のデッドストックや規格外品を扱う蚤の市のようなイベントです。
あるとき、B品の陶器を見たお客さんが、「こんなの唾つけときゃなおるのよ」と言って買ってくれたことがありました。もちろん、使用するのに支障がある商品ではありませんが、そういう寛容さがいいなと思います。 会場では、意味のないルールもできるだけなくしています。スタッフが裏で休憩するのではなく、表で休憩してもいい。 みんなが、いい意味での配慮と、いい意味での寛容さに包まれる世界をつくっていきたいです。

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